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未完の遠野紀行−1991[その2]
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 これは、1991年春に遠野方面を旅した際の出来事を帰着後記録したものである。幾分10年近く前の記録なので、現在の様子と異なることや、文章に多少のミスがある部分については加筆訂正、もしくは付記にて補足を加えた。

2・奥羽山脈横断とせんべい
〜陸羽西線に揺られ〜

 「ムーンライトリレー号」の車内でしばらく仮眠していると余目に到着。ここで立ち食いそばをすすって朝食にしよう、と思っていたが、その考えはことごとく打ち砕かれた。余目駅には立ち食いそばがなかった。途中下車した駅前にはからっとした空気が流れていた。駅のすぐそばに寿司屋があったが、どうにしても朝から寿司というわけにもいかず、何せ店が古ぼけているため、開店しているのか休業しているのかもわからない。駅前通りを過ぎれば、もう少し店があると思うが、列車の接続時間が40分しかなく、夜行明けで歩くのもつらく断念。駅のキオスクでチーズ蒸しパンなるものを買う。同じく陳列していた「白いパン」という商品名を見て、自宅で飼っている白いのことをふと思い出す。

 40分という待ち時間は何とも半端だ。食堂を見つけて探すのにも足りないし、待合室でジーッとしていても飽きる。再びキオスクで『山形新聞』の朝刊を買い、めくってみることにした。
 社会面には『野菜が高い! キャベツは2〜3倍高』と一面の4分の1を占めている。地域面を見ると、『指定券残席』と新幹線と接続特急、航空機の座席の状況が○×で書かれている。上野直通の『つばさ』と大阪直通の『白鳥』が普通車、グリーン車とも3月末まで全て満席。『○○分校閉校式』、『塩水で種もみ選別』…といった地元色の強い記事も見受けられる。

 「間もなく、陸羽西線新庄回り、快速『もがみがわ』山形行きの改札を…」
と構内アナウンスが聞こえる。早速荷物を持って改札に向かう。が、地元の人はまだ、待合室のストーブから離れようとしなかった。駅の階段を上がり、目的のホームに着いた。寒い。
 ホームの横から冷たい風が強く吹いている。このまま待っていると風邪を引いてしまうので、ホーム上の小さな待合室に入る。

 「…番線に陸羽西線回り、快速『もがみがわ』山形行きが…」
ホームにアナウンスが響く。そのころになって、先程のストーブに当たっていた人がホームに来る。風が強くホームが寒いことを知っているのだ。
 酒田から2両のディーゼルカーがブレーキの音を立ててやって来た。かなり車内が混んでいる。適当に空席を見つけて座ると、子供連れの席に着いてしまった。通路をはさんだ隣を見ると、これもまた子供連れ。「こらっ!ちゃんと靴履きなさい」と若いお母さんが女の子に注意している。

 陸羽西線は羽越本線余目から奥羽本線の新庄まで行くローカル線。途中、「奥の細道」で名高い最上川に沿って走る風光明媚な路線で結構人気がある。しかし、この列車、結構揺れる(キハ28 2380)。コイルばねの台車が小気味よく『タタンタタン』といいながら車体が上下に揺れる。先程の菓子パン(よりにもよって、「チーズ蒸しパン」)を食べながら乗っていると気分が悪くなりそうだ。
 車体は揺れるが、車窓は逸品。最上川を横目に列車がゆっくりと走ってゆく。が、今日の最上川はそれほどきれいではなかった。雪解け水か入って少し濁っていたからなのか。

 古口に着く。ここは川下りの船が出る最寄り駅で、駅前には食堂や観光土産店があったりするが、春先で朝のせいか、客がいなかった。今度、機会があったら、この川下りも楽しんでみたいと思う。
 列車に揺られること1時間。新庄に到着した。陸羽西線は車内で食事さえしなければ、なかなか乗りがいのある路線である。
 新庄の駅に降り立つ。朝の清々しい風がなんとも心地いい。

〜爽快な塩味の「オランダせんべい」〜

 新庄のキオスクで私は、以前から欲しいと思っていた商品に出会うことができた。『オランダせんべい』(*1)である。
 確か、数年前に放送していたTBS系列の『テレビ探偵団』という番組で、ある山形出身のタレントがむかし食べた菓子について話していたが、その中に『オランダせんべい』の名前が挙がっていたのを鮮明に記憶している。番組では昭和49年頃に放送されたCMまで流していた。
 この番組を観た直後、「これは一度は食べてみたい」との衝動に駆られた。遠野へ行くにもかかわらず、新潟行きのムーンライト号を使い、陸羽西線に乗って新庄まで出たのは紛れもない、この『オランダせんべい』を購入したかったからである。

 キオスクでパッケージを目撃し、110円を払って手に入れたとき、ふと脳裏に
 ♪坂田米菓のオランダせんべい
というCMソングが流れてきた。それほど嬉しかった、ということである。

 さっそく緊張した面持ちでその『オランダせんべい』に手をつけてみる。見た目亀田製菓の「薄焼きせんべいサラダ味」に似た、何のことはないただの薄焼きせんべいが24枚並んでいるだけなのだが、やはり夜行列車を乗り継いで買っただけあって嬉しさがこみ上げてくる。くどくないほのかな塩味が、チーズ蒸しパンでくどくなった口腔に爽快をもたらす。

 ふとパッケージを見ると、
「当オランダせんべいは、東北地区だけで販売しております。他地区での御用命にはフリーダイヤルをご利用ください…」
と書いてある。「東北地区限定」に一種のこだわりを感じる。

 せんべいをかじっているうち、接続の陸羽東線が発車する時刻になった。陸羽東線小牛田行きはオレンジ一色(キハ48 1533)(*2)とツートンカラー(キハ23形)の2両が連結してあった。私は新しく塗られたまぶしいオレンジ一色の車両に乗る。
 列車はディーゼルカーのエンジンを唸らせて新庄を出る。車窓を見ると、まだ雪が残っている。あちこちに『鉄道防雪林』の看板が見える。人が滅多に入らない所にまで木が植えてあり、木を植え、手入れをしている保線区員を想う。

 20数分後、大堀に到着。数年前、最上川杉でできたログハウス風の駅舎に建て替えたそうで、駅の中には図書室があるという。ここもぜひ降りてみたい。
 トンネルと防雪柵(スノーシェッド)をくぐりさらに1時間。温泉で有名な鳴子に到着する。今までの乗客の大半が降り、数名の客が乗りこむ。温泉場の雰囲気を駅から伺えるものでもなく、数分停車して走り始める。

 鳴子を過ぎると平坦な水田風景に入る。ボーッと車窓を見ているとまた睡魔が走る。40分程走って新幹線の接続駅、古川に到着した。ここでかなりの乗客が降りていく。
 古川を過ぎればもう小牛田までは近い。列車が右カーブを曲がっていくと東北本線の線路と並んだ。奥羽山脈をローカル線で抜ける旅ももう終わりだ。しかし目的地、遠野まではまだまだ遠い。

−脚注−
オランダせんべい: 酒田米菓株式会社製造の薄焼き煎餅の名称。東北地区限定発売。語源や購入方法については酒田米菓のWebサイトを参照。
 実はコンビニエンスストアーやスーパーをくまなく探すと、「オランダ煎餅」テイストの薄焼き煎餅に出会うことがある。もちろん製造は上記の会社と同じ。

キハ48形1533番: 1979年、富士重工にて新製後、仙台の小牛田運転区(現・小牛田運輸区)に配属。陸羽東線など小牛田管轄路線を走り続けた。途中、塗色変更や冷房改造が行われるが、石巻線用ワンマン改造は行われてない。快速「南三陸」号の運用に入ることがあったが、2007年に新型気動車に置き換わっている。現在は気仙沼線に顔を出す。自分が過去に乗った車両が今でも現役で動いているのを知るとちょっとした感動を得る。

 ちなみに、陸羽西線で乗ったキハ28 2380番も小牛田で健在。

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