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夏の終り、青森に−1991 [その6]
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これは、1991年の8月21日から、弘前・青森・八戸を旅した記録の続編である。蕪島を訪れたのち、灯台へ向けて歩き続ける…。

6・灯台を求めて
〜迷い道の先〜

鮫角灯台 漁師のお爺さんから、「鮫角灯台(さめかどとうだい)に行ってみるといい。歩いて15分くらいだ」と言われ、行ってみることにした。

 海水浴場のサラサラとした砂を踏みしめ、目指すは鮫角灯台。階段を登って車道に出ると場違いな建物を目にした。八戸水産科学館、マリエントの建物であるが、私たちは覗くのをパスして歩き進む。

 道が分からず、ガイドブックの絵地図を見ると、八戸線の線路の向こうにあると分かり、適当なところで線路を渡ろうとするが、盛土の上に線路があるのでまたげない。が、遠くを眺めると盛土を登る道があるではないか。迷わず高い草の生える踏み分け道を登って線路をまたぐ。ここは通る人がかなりいるらしく、またごうとした時、『列車に気をつけて下さい』と書かれた札が目に入った。

 線路を通り越すと延々と砂利道が続く。本当にこんな所を通るのか。洗濯物を干していたおばさんに尋ねると、「ここを通っても行ける」とのこと。とは言っても通り掛かる人はいないし、灯台の『と』の字も見えてこない。

 十分くらい歩いたか、雇用者保養センターの建物を見ると向こうに『鮫角灯台入口』の文字が見えた。『入口』の看板は山道のそばに置いてあったから迷わず山道をゆく。これも保養センターの敷地内で施設の案内があるが、肝心の灯台が見えない。頂上にはアンテナの櫓(やぐら)が立っているだけ。

 「まさかこれが灯台っていうことないよね」
いやな雰囲気が周りを漂う。が、櫓の上に電球なんてなく、ただ、パラボラアンテナが二個付いているだけだ。結局、道を間違えたと分かり、山を降りる。
 誰もいない保養所のローラースケート場に降り立ち、ふと遠くを眺める。ん、あそこに見えるのは…。探していた灯台ではないか。発見できなかったら引き返すつもりだったので、白い灯台を見て思わず叫んでしまった。今までの歩き疲れが吹っ飛んでいく。

 『これより先車両立入禁止』と書かれた札を眺め、青い夏空でやけに白さが際立つ灯台へ一歩一歩近づく。
 コンクリート製の真っ白い灯台は昭和13年に設置された。周りは閑散とした風景で、近隣には牧場があり、馬が草を食(は)んでいる。できれば灯台施設内に入りたいところだが、日曜日とあって事務所は閉まっていた。記念写真を撮って帰ることにする。帰りは山道を通る心配はない。もっと近い道があったのだ。それも『灯台入口』の看板があった所に。結局、私たちは道を間違え、しなくてもいい遠回りをしてしまったのだ。けれども、踏切のない線路を渡り、砂利道を延々と歩いた後に見た白い灯台の感動は、近道をしていたら決して得られなかったのだと思う。

 帰り、住居地区を歩いていると、先程の漁師のお爺さんの姿を見た。まさか、またお会いできるとは思いもしない出来事だ。もう一度お礼を言って再び歩き出す。途中、道の傍らにあった安協鮫支部の交通安全看板を眺め、その古典的センスでIさんと談笑が続く。その看板にはこうあった。
『八戸をそんなに急いでどこえゆく・・』
 確かにそう思うが、『え』の字といい、車の絵といい人といい、ヘタウマ漫画のタッチで描かれているそのセンスの方に心を奪われてしまう。

昼下がりの鮫駅構内 そろそろ腹が空いてきた。何か腹に入れたいが、入りたいと思う店がない。いずれの店も中華そば屋で、選択の余地がない。とにかく一軒入ってチャーシュー麺を食べたが、うまくもないしまずくもない。どうもこちらの食堂はラーメンがうまくない。昨日もはずれた。今回、昼食をとってうまいと思ったのは青森駅前の帆立の刺身定食だけだったのか。

タブレット常設位置 鮫に戻り二両編成のディーゼルカーは信号機のプロトタイプともいえるタブレットを上下列車ともに交換し、八戸を目指しエンジンを唸らす。帰りも中高生らで満席。本八戸で大半が降り、やっと座れた。
 八戸から重連機関車に引かれたブルー客車の青森行きに乗ってYHへ戻る。車内でIさんに地形図を見せると、地形図の折り方なるものを伝授してもらった。さすがは地理学を勉強しているだけある。余白と地図画面の境界を折っていくうち、Iさんが、おかしい、おかしいと言う。四ツ折りにしたら右の耳が余ってしまったのである。

 『そんなはずはないですが…』と記号説明の下にある『行政区画』の欄を見ていると、思わぬ発見をした。画面上部の寸法と下部の寸法が違う。一ミリほど寸法のずれがあったのだ。丸い地球を平面で表わすと、上方向への緯度が高くにつれて誤差が出てくる。中学の地理で勉強した「メルカトル図法」を思い出す。
 「ヘェー、なるほど」と私は思わぬ発見に驚き、車内でずっと「ヘェー知らなかった、知らなかった」と連呼した(*10)

〜マウンテンバイク、牧場内疾走〜

川要牧場から東北本線の線路を望む Iさんとは向山で別れる。この先、北海道へ渡るのだという。今の時間は15時半。YHに着くのが早すぎた。

 マウンテンバイクが借りられるというので、YHのヘルパーさんに頼んでみる。T字型のハンドルに戸惑いながらも、ゆっくりとペダルを踏んでいく。坂道や砂利道をギヤーを巧みに変えて走るところに面白さを感じ、カシカシ切り換えてみる。坂を登りきり全速力でザーッと降りてみる。汗ばんだ額に涼しい風が勢いよく当たり、これがなんとも気持ちいい。二度三度繰り返してみる。これに飽きると林を駆け抜ける。いくらでも回るところがあって、そのひとつひとつが面白い。そして何らかの発見をする。

 私が驚いたのは、アメリカ軍の車が置いてある所に『この敷地に入ると不法侵入罪で処罰されます』の看板が。これはまずい。ここに入ったために連行されるのは御免だ。すみやかに退散する。引き返しつつ林を走っていると、昼間でも真っ暗な場所に潜り込む。道の両脇には高さ70センチのシダが群生して恐ろしい。2時間ほど走れば汗が噴き出してくる。このあとに入る露天風呂も何とも格別である。思わず足を高く上げていたら、他の客が入ってきて赤面した。今日で露天風呂に入るのは最後なので思う存分つかってみる。

 YHでは、私が「七戸第2中央」バス停から降りたものの、駅が分からず乗るのを断念した南部縦貫鉄道に乗ったという方がいたので話してみた。乗っての感想は『揺れる』に尽きるという。バネがきいておらずレールのデコボコが直接体に響くのだという。乗車記念にテレホンカードと切符だけでなく、車体塗装の剥げた部分をはがしてものも持ってきたという。実物を見せてもらったが、朱色地に白色で@(1エンド標記)と書いてある部分を失敬したらしい。

 今日は随分と色々な体験をした。イラコの味は今でも口に残るものがある。漁師のお爺さんの言葉も忘れられない。Iさんと灯台まで歩いたことも地図の疑問も、この旅に出ていなかったら絶対に歩けなかったし、地図について知ることも出来なかっただろう。

 さて、夜も更けた。明日も早いから寝るとするか。

−脚注−
地形図を見て驚く: ふと教育について考えることがあるが、机上学習と実体験学習は決して分離してはならないと思う。しかし、現在の学校教育のシステムではこれをやるのは非常に難しい。だからといって、「夏休みは必ず旅行に行かなければならない」とやってしまうと自主性に欠ける。誰かから強制されて行くような旅行に、何も得るものはない。

●おことわり
 1996年の初版公開時では、旅先で知り合い、一緒に町を歩いた方々のお名前を掲載しておりましたが、近年のインターネット上でのモラル、プライバシーの保護を鑑み、今回の改版では氏名の掲載は控え、代わりにイニシャルによる記載をしております。


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