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1990夏 蕨〜高崎 路線バスを乗り継ぐ-3
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 1日だけの小さな旅から、数日がかりの旅まで、日記風に描く旅行記です。
今回は1990年8月に蕨駅〜高崎駅間を路線バスで乗り継いだときの記録です。


↑懐かしい幕式運賃表示機イメージ

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熊谷駅(10:05)→太田駅(10:55)
太田駅行き 東武バス 車号7438 540円

 わずか10分の乗り継ぎ時間で、駅前通り沿いにある乗り場から太田行きの東武バスに乗り換える。熊谷にたどり着いた余韻に浸り、私の大好物である銘菓五家宝を買い求めるなどという余裕は当時の私たちにはなく、ただただ乗り継いで目的地へ向かうことだけを考えていた。

 熊谷から太田へ至る道路にはバイパスと旧道があり、私たちが乗ったバスは旧道を走っていく。ちなみにバイパス経由は妻沼止まりで「急行バス」と呼ばれている。

 ここまでくるとE君と特に会話をするわけでもなく、車窓を眺めているのみだった。私は沿道の薬局のドアに「肥後ずいき」と力強い筆文字で書いてあるポスターが目に入り、「肥後ずいきって何だろう…?」と疑問に感じ、旅程を記したメモの隅に「肥後ずいき」と書き込んだ。
 後年になってその正体が分かったとき、無知であることの恥を知ったが、果たして知っていたほうがよかったのか、知らないほうがよかったのか。

 さらに沿道を眺めていると「白石バスセンター」なる看板を発見。一瞬バスの車庫か停留所かと思うが、風呂桶を販売している会社(白石風呂店)だと分かり納得。

 バスに乗っていると、近くの風景を観察することができるから面白い。列車とはまた異なる車窓展開の面白さを知る。

 かつて東武鉄道唯一の非電化路線で1983年5月に廃止された熊谷線の終点、妻沼を過ぎ、刀水橋を渡れば「鶴舞う形の群馬県」に突入。運賃表示機も13区間まで運賃が表示され、始発から乗った私たちは540円を運賃箱に投げ込んで太田駅前に降り立った。

太田駅(11:18)→伊勢崎駅(12:16)
伊勢崎駅行き 群馬中央バス 690円

 ここまで接続は順調、引き続き路線バスを乗り継ぐ。
 太田から乗った黄色と白のボディーカラーの群馬中央バスは伊勢崎へつながるひたすら直線な県道を走っていく。

 車内は背の高いチェック柄のシートが前向きに連なる、典型的な地方路線の座席配置。今まで乗ってきた車両はすべてシートが肩までの高さで、特に東武バスでは座布団が平べったく固い座席になっており、長い時間を乗り通しているうちに尻が痛くなってしまった。
 そのため、ヘッドレスト部分白いビニールのカバーが付いているだけで豪華さを感じてしまう。寒いくらいに効いた冷房と座りごこちのいい座席、そして延々と続く長い直線道路の快適さに思わず睡魔が襲ってくる。

 新伊勢崎を手前にしてようやく市街地に入り、賑やかな商店街を走り抜けて伊勢崎駅に到着。乗車時間も長く運賃もかかった割には乗ったときの印象が薄く、当時の記憶を一生懸命思い出そうとしているのだが、出てこないでいる。

伊勢崎駅(12:28)→前橋駅(13:05)
駒形経由 前橋駅行き 群馬中央バス 620円

 出発から6時間が経過した。目的地はもう間もなくとなった。
 伊勢崎から乗った前橋行きの運賃表は15区間から始まっていた。始発から乗ったときは整理券なし、という路線しか乗ったことのない私にとっては、始発で整理券を取ることがとても新鮮に感じた。

 バスは駒形バイパスの南側旧道を走る。田中島を過ぎ、宮子に近づくと遠くに伊勢崎オートレース場が見えてきた。
ここで小学生のとき、親に連れられて伊勢崎レース場に出かけたときのことを思い出す。エンジンの爆音に思わず耳を塞いだこと、車券の発売締め切り前に流れる音楽が川口オートレース場と同じ「かっこうワルツ」だったことが強く印象に残っている。

 今では「山の音楽家」に変わっているが、この話をすると「え、そんなわけないだろ?」と返答されることが多々あるが、忘れもしない。翌日のレコード鑑賞の授業で「かっこうワルツ」を聴いたときに「伊勢崎オートの曲だ」と思わず言ってしまったことを。

 駒形、天川大島を抜けるといよいよ前橋の市街地。のどかな街道をひたすら走ってきたバスはいよいよ賑やかな街中を走っていく。道路沿いを行き交う人の数が増えてくるとなぜか安堵感が襲ってくる。

 13時過ぎ、前橋駅に到着。台風一過の強い陽射しが容赦なく照りつけ、冷房で冷えきった身体は10分もしないうちに汗ばんできた。

前橋駅(13:15)→高崎駅(13:49)
芝塚経由 高崎駅行き 群馬バス 490円

 前橋から高崎にいたる路線は4路線ある。
 17号バイパス(高前バイパス)と北高崎駅を経由する「北駅バイパス経由」、小八木町付近で高崎問屋町を経由する「問屋町経由」、上越線南側の県道を通り井野、貝沢を走る「芝塚経由」、そして中央前橋から京目、江木を経由する「京目経由」だ。
 バイパス経由、問屋町、芝塚経由はいずれも群馬バスと群馬中央バスが共同で運行している。京目経由は上信バスの路線だ。

 どの路線に乗ろうかと迷うところだが、バイパス経由、問屋町経由、京目経由ともに本数が少なく、15分間隔で頻発している芝塚経由に自ずと選択肢がしぼられた。

 1985年頃、高崎〜前橋間の運行本数は非常に多く、芝塚経由は日中でも10分間隔で運行されていた。うち1時間に2本ほど群馬中央バスの車両が入ってきて、この会社の車両にあたると得をした気分になった覚えがある。当時、冷房が入っているバスは群馬中央バスしかなかったからだ。

 あれから5年。上越線、両毛線の運行本数が増えるにつれ、バスの運行回数は大幅に減っていた。バイパス経由は1時間に1〜2本足らず、さきにも触れたように芝塚経由も15分間隔。一抹の寂しさを感じつつ、冷房付きの中央バスがやってくることを期待しながら停留所で待っていると…。

 銀色に赤帯の群馬バスだった。乗車口の後ろ扉は折戸で、車内ドア近くには扉を開けるレバー型のスイッチがついていた。ワンマンならぬツーマン仕様だ。
ステップを上がり車内に入ると、むっとした暑さを感じる。この旅ではじめての非冷房車だった。

 非冷房、板張りの床、ビニールカバーのかかった深いブルーのシート。さらに運転席近くの両替機は100円専用、運賃箱もレバーが付いていて料金を入れるごとに運転手がレバーを引く手動タイプととても趣き深い「古いバス」である。
 5年前はこうした車両がほとんどであり、それらの設備を当たり前のように接していたのだが、久しぶりに見ると車内設備の古さに驚きを隠せない。

 冷房がなければ窓を思い切り開ければいい。窓を開けても入ってくるのは台風一過特有の熱風。風を切る音に加え、けたたましいエンジン音に会話さえできないが、6時間近く寒いくらいの冷房に浸って鈍った身体には、こうした自然の風がちょうどいいのかもしれない。

 井野川近くのイタリア料理店横を通り過ぎる。数年前「エスト」という名前だったが、改称されている。この店でレモンパイなるものをはじめて口にし、その甘酸っぱさにえらく感動したが、極私的な昔話だ。

 「次は島前。横断は見るくせ待つくせ止まるくせ。この交通キャンペーンは地元ともに歩む高崎信用金庫の提供でお送りしております」
という車内アナウンスが妙に耳に残りつつ、上越線と新幹線のガード下をくぐる。総合文化センターを過ぎれば高崎の市街地に入る。「見るくせ待つくせ…」に並んで印象深いアナウンスだった「ごとーとけーてんまえ」本町3丁目は放送内容が変わっていた。ちなみに「ごとーとけーてんまえ」とは「後藤時計店前」のことである。

 ついにバスは高崎のメインストリート、田町通りをゆっくり走り抜ける。かつては田町停留所で待っていれば高崎発のほとんどのバス路線に乗ることができたため、停留所には買い物帰りの人が群がっていたが、藤五伊勢丹が閉店して以来、ずいぶんと淋しくなった。
 この田町停留所のバスポールに掲げられている無数の時刻表を見たことが、バス路線への興味を持つきっかけになった。安中車庫、箕郷、権田、月並、薬師温泉などの地名に未知の世界を感じ胸を躍らせていた小学生時代はいずこ。

 13時49分、目的地の高崎駅西口に到着。走行距離約143.7キロ、所要時間7時間33分、9回の乗り継ぎで運賃3560円の旅の片道が終わった。

 駅前に降り立ち感じたのは、乗り継ぎの達成感というよりも、ただ暑い、涼しいところでひと休みしたい。腹がすいた、冷たいものが飲みたいというものだった。
 それよりもこのような乗り継ぎにひたすら付き合ってくれたE君に対して、ありがとう、というよりも、こんなのに付き合わせてしまって申し訳ない、という気持ちの方が強かった。

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