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夏の終り、青森に−1991 [その3]
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これは、1991年の8月21日から、弘前・青森・八戸を旅した記録の続編である。弘前で2日目を明かし、青森へ到るが…

3・青森点描
〜連絡船と古客車と三角アスパム〜

 翌朝、出発の時間。YHで知り合ったある男性は青森までサイクリングするという。「多分、アスパムにいると思いますから」と告げ、私はYHを後にする。

 大学病院バス停から弘南バスで弘前駅に向かう。駅での待ち時間に、売店で『陸奥新報』を買うと、一面にはゴルバチョフ大統領の写真が。大統領は無事だったがクーデターを起こした六人は逮捕。これも大ニュースだが隣の記事も大ニュース。凍結していた東北新幹線の盛岡−青森間の工事が認可されるという話題。ついに、青森に新幹線が来る。地元で祝杯をあげている写真も載っていた。しかし、在来線をつぶしてミニ新幹線にするのはやめてほしいと思う(*4)

 50系という赤い客車を三両連ねた普通列車で青森へ向かう。昨日の曇りとはうってかわって快晴ですがすがしい。もう秋だ。車窓から岩木山が空を突き破ってそびえ立つ。客車内では地元のおばさんが世間話をしているが津軽弁で理解に苦しむ。訛りとか言うものでなく、言葉自体が違うのだ。列車が左へカーブすれば終点青森。

 「あおもーりぃー」列車の扉が開くとホーム中にアナウンスが響き渡る。いかにも終着駅を感じさせるアナウンスだが、駅の放送では『終点』とは言わないのはなぜだろうか

 駅前に降りると結構暑い。週間予報はずっと曇りか雨だと言っていたので、長袖まで持ってきてとんだ大荷物だ。これからどこへ行こうか。以前から青函連絡船が展示してあるとの情報を聞いていたので、話のタネにと覗いてみることにする。

八甲田丸の甲板より廃車群を望む 『青函連絡船メモリアルシップ・八甲田丸』は、青函連絡船を後世に伝えるために作られた施設だ。中に入ると昔の船室は撤去され、博物館になっている。船内は歴代の連絡船の模型や、大正時代の客室が展示してあるが、なぜか場違いな立体映像シアターもここにはある。これは中身よりもシアターを見に来た人を見物している方が笑える。「うへぇ」と婆さんが飛び出した(ように見える)魚を手でつかもうと悪戦苦闘していたり、見ている間でも世間話に余念がない人…。真っ暗なシアターでいろいろなドラマが繰り広げられているのがわかる。

 往年の連絡船らしさを残すものはないかと探していたところ、一区画にそれを見つけた。グリーン船室の指定席だ。私が旅を始めたときにはとっくに連絡船はなくなっていたが、この船室の事は本でよく読んだ。シートは赤く、幅広く、そしてリクライニングが深い。頭もたれに小さな読書灯がついていて、そのむかし夜の津軽海峡を渡っていた頃の名残りを見せる。シートのリクライニングを最後まで倒せばたちまち眠りを催す。おかげで、カメラをこの場所に置き忘れてしまい探すのが一苦労。急行「津軽」の車内で切符をなくしかけた少年に何か言えたくちではない。他にも寝台が保存されていたが、ガラス張りで中に入れなかった。

 上の階へ行くと、ブリッジ(操縦室)。舵を回してしばし船長気分にひたる団体さんが多くいる。双眼鏡を覗けば、下北半島や北海道が見える。この双眼鏡は無料なので嬉しい(*5)。この操舵室には簡単な造りのシミュレーションゲームがあって、青森港から函館港までうまく辿りつけるかと試みるが、 下手に舵を回して下北半島に激突。『連絡船は沈没しました。あなたは残念ながら船長失格です』と東北らしいクールなメッセージ。その後、何回か操舵したら函館までうまく辿りつくことができた。

 一気に海面まで降りると鉄道車両の航送で使用するときに使ったスペースに郵便荷物車や控車という、航送の時に船に橋を渡して車両を入れるときに、重い機関車を橋に乗せないように貨車や客車と機関車の間につなぐ貨車があったりする。が、それに矛盾するようにディーゼル機関車が置いてある。どうやって中に入れたのかが気になる。海面下にはエンジンルームがあり、今でも発電機がガッチャンガッチャンと作動しているのには驚く。なかなか見応えのある船だ。

 八甲田丸を出て、空を見上げると建設中の橋が見える。吊り橋のようにワイヤーが橋脚から延びていて綺麗だが、建設予想図の看板を見ると橋の名前はなんと『青森ベイブリッジ』。パクリと言えばパクリ。なんとも直感的な名付け方で少しは工夫しろと言いたくもなる。しかし、この橋が完成すれば駅前の風景も相当変わるだろう。

 さらに足を進める。遠くに客車が置いてあるので、そこまで行ってみようと歩いてみる。客車は錆びているが、うまく修繕すれば走れなくはない状態。ガラスの破損が気になる。当然ながら車内には入れない。客車が二両、ディーゼルカーが六両、ずらっと並んでいる。ディーゼルの方にも近づく。台車が錆び付いていたり、ふと眼の前を見ると便所の排水パイプがあったりして気分が悪くなる。50センチほと延びた雑草の中をくぐり抜ける。窓に板が打ちつけてあるのは、ガラスを割られて車内に侵入されスプレーで落書きされたからだろう。ここまでくると再生の余地はない。ちなみにこの車両、北海道向けの急行ディーゼルカー、キハ56形である。この車両が船で運ばれたのか、トンネルをくぐってきたのか謎だ。

 車両群の先まで歩く。鉄条網があって『立入禁止』とあっても脇を通って先に進み防波堤まで出る。私の他にも三人の男女のグループと釣り客がいる。防波堤の左右は海。風が強いので吹き飛ばされたら一巻の終わり。端まで行ったところでさっさと引き返す。

アスパム全景 八甲田丸から観光物産館『アスパム』まで無料マイクロバスで行く。ほんの五分で着いてしまう。降り立つと、大きな三角のビル。これが青森県観光物産館、アスパムである。

 アスパムは弘前でいう『市立観光館』のような機能もあるが、全体的に博覧会のパビリオンのノリ。案内をする人もそのコンパニオンに見える。一階は土産物屋で帆立からリンゴジュースまで、大抵の物はここで揃う。ここでも『アオレン』の販売機を発見。同じ物を飲んでも面白くないので『アップルスカッシュ』を買ってみる。果汁50%炭酸入りでどこかで飲んだ味に似ている。

 二階がパビリオンの機能を果たすところ。市町村の名産物や行事をパネルにして掲示してあったり、NTTのPRセンターや、下北半島六ヶ所村にある核燃料再処理施設や原発のPRが目立つ。いずれもパビリオンの入口にあるようなもので、さっと見て次へ向かう。他がパッとしないのに対して、次の『パノラマ館』は、なかなか推薦できる。ここは有料なのだが、アスパム全館と八甲田丸の共通券を買ってあれば心配なく入場できる。

 ホールでは一時間毎に上映される『出会い求めて青森路』というタイトルの映画が始まっている。360度マルチスクリーンで前から後ろから横から映像が飛び込む。飛行機やボートにカメラを取りつけて撮った映像で自分もそれに乗っているような錯覚を起こし、気分が悪くなる。しかしそれにしてもこの映像、慌ただしい。もう少しゆっくり流してもいいのでは、と思うくらい、パッパッパッと次のジャンルに移ってしまう。リンゴまみれになっている女性をどう写したか気になるが、八甲田丸の立体映像よりは全然格が違って見応えがあった。

 第二の目玉、展望ラウンジへ足を運ぶ。展望エレベーターで一気に上がるが動き出したときが妙に気持ち悪い。ラウンジに入る前に女性の係員にチケットを見せてスタンプを押してもらう。スタンプは八甲田丸の方が郵便の日付印のようで土産としてはこちらが上。

 展望は市街地より下北や北海道が見える区画に人気がある。望遠鏡は有料で時間が短いのであまり利用しない方がよかったと後悔する。北海道や下北半島や函館行きの水中翼船(ジェットフォイル)が猛スピードで青森を後にしたのが見える。

 アスパムは観光客にとっては『みもの』の一つとして来るが、地元の人にはここをどうやって使うかを見てみたら、バスの待合所として使っていた。ここから八戸やむつ市などへ行くバスが出ているため。津軽弁を話しながらバスを待つ人達とこの三角ビルのミスマッチがまたいい。そろそろ腹の欲求不満が起きたので、昼食の場を見つけることとしよう。

〜大衆食堂と市場〜

 今日は快晴。何度も言うが暑い。冷害で困ると言っていた東北に今頃夏が来た雰囲気さえある。せっかく海に近い所まで来たのだから海の物を食べなければ来た甲斐がない。

 さて、どこに入るか。寿司もいいが、場所によって当たりはずれがある。別に寿司が古くて『あたる』という意味ではない。それに、とんでもないところに入って高い金を請求されるのは御免だ。そうでなくとも一皿300円は高い。

 では、海産物のある食堂にでも入ってみよう、と『一二三食堂』ののれんをくぐる。ここはいわゆる『駅前食堂』と呼ばれるところ。客は地元の人ばかり。昼間からビールを片手にテレビを見ながら帆立を食べているのが見える。

 刺身定食1000円、焼魚定食650円、中華そば400円…いずれも食堂価格。私は海産物を食べに来たのだから『帆立刺身定食』800円を注文。周りを見れば、冷やし中華やうな重を召している客が。うな重より帆立の方が高いぞと心の中でつぶやいたりする。

 『帆立刺身定食』は帆立て刺身、おひたし、漬物、丼御飯、そして味噌汁がつく。帆立は生臭くなく、トロッとしていてうまい。おひたしと漬物がいずれも白菜で何か面白くないが刺身の美味さでよしとしよう。食べている人は世間話が絶えない。昨日の弘前で入った銭湯であったような気分がまたこみ上げてきた。

 また来てもいいな、と思いつつ戸をガラガラと開け、駅前市場へ向かう。
 駅前市場でひときわ目立つのが「日本で二番目に安い店」という看板。この『二番目』がなかなかいい。日本一としない、その控えめなところがいい。一番目からずっと番付されている看板に書いてある。ちなみに1番目は札幌、3番目は上野のアメ横だった。  幅二メーターの通路の両脇にあらゆる魚介類が並ぶ。帆立専門や刺身専門、冷凍食品専門など、種類を限定して売るのも市場の特色。早いところ帆立を送ってしまおうと、何軒か回って安めの所に行く。

「これ、ホントに生?」
ああ、といってバシッ、と帆立を力強く叩く。すると、帆立は閉まり掛けた殻を再び元に戻した。フーン、ではこれを戴こう。最近は生物も、急速冷凍して送ると次の日には関東地方に着いてしまうのはいいが、冷凍なので輸送費が高い。
 宅急便の伝票をもらった後、しばらく市場をうろつく。
「兄ちゃん、刺身、切って送るよ」とおばさん。でも刺身を送るわけにはいかない。来るるたびに声を掛けてくる商売熱心な店もあれば、隣の店とダベっている所もある。

 道幅が1メーターしかない暗い小道を歩くとここはリンゴの店。右に左に真っ赤なリンゴが並ぶ。やっと表に出たところで、
「ちょっと食べてよ、新ものだから」といい歳したお婆さんがリンゴを手際よく切って私に渡した。一口食べるとなかなか美味い。八月と早いので酸っぱいと思っていたが。
「すぐ送るよ、家、どこ」もう商談が始まっている。多分、リンゴに口をつけた時点で買った、となるのだろう。しかし、金は先程の帆立で大きな出費をしてしまった。郵便局に行けば引き出せるが、今後の予算の関係でパス。でも、この婆さんなぜか捨てがたい。
「来週、またここに来るから、いいの取っておいて」と告げる。
「わかった、来週ナ、んじゃ、名刺渡しとくから」
そういうとこの店の住所が書いてある名刺を渡した。今度来るときこれを見せればいいのか。
「それじゃ、また来ますから」
「ハイハイ」

アスパム全景 来週またくる事を約束して、屋根に『ねぶた漬け』や『サンポット石油ストーブ』の看板のある青森駅へ向かい、15時46分の東北本線の普通列車に乗り込んだ。ブルーの12系急行形客車の白帯を塗りつぶしてローカル用に改造してある。本来急行形で開発された車両なのでシートの幅が広く座り心地がいい。青森はすでに学校が始まっているのか、部活動の帰りか、学生が多い。

 車中で駅売店で買った『アップルスナック』を開けて食べる。これはうまい。リンゴを油で揚げてあるものでパリッとしている。特に皮の部分が妙に歯ざわりがいい。四〇〇円とちょっと高めだが、なかなかの美味でもう一袋、となる。

 列車が発車すると寝台客車でよく聞くチャイムが鳴る。構内を過ぎると急加速する。左に海を眺め、トンネルに入り、山を眺める。少しウトウトしたところで今日の宿泊地の最寄り駅、向山に。ここは三沢からひと駅だが、周りは雑木林。無人駅に降りたのは初めて。携帯型の無線機を肩にかけた車掌に周遊券を見せて渡り階段を上がった。

〜牧場内の露天風呂にて〜

 今日の宿泊は駅から歩いて10分のカワヨグリーンYH。牧場の真ん中にYHがある珍しい所。建物も木製の洋館。入るとサブペアレント(当時)の高塚さんが案内をする。ここには露天風呂があるので行ってたら、と。ヘェーッ、露天風呂。こりゃいい。ここでも、サアーッと荷物を置いて、露天風呂へ直行。丸太でできた脱衣所からみて出来たのは新しい。ナントカ研究所の泉質検査書が額縁に掛かっているので見る。

 食塩泉に硫黄が混じった温泉で、そばの古牧温泉(三沢)と同じ質。温度は42度とあるが昼間は止めていると言うのでぬるい。すでに3人ほど先客がいて、YHの客の他にもう一人おじさんが。この方がこのYHのぺアレント川口さん(当時)。このカワヨグリーン牧場のオーナーでもある。牧場の方が忙しいので宿泊関係はサブペアレントの高塚さんにまかせているとのこと。

 ここからの景色は素晴らしい。一面牧草で、遠くに東北本線が通っていて、私が湯につかっているときにもコンテナ貨物と特急『はつかり』が通り過ぎた。空は青く高い秋の空で、飛行機が飛んでいる。聞くと、三沢から飛び立ったジェット機。東京に向かうものだと言っていた。夜になれば夜行列車の灯と星がきれいだという。
「ほら、向こうに月が出て、こっちは夕日だ」
「満月に近いですね」
「満月の晩、風呂にお盆を浮かせて一杯飲るのもいいな」

「この温泉を飲むと胃腸にいい」というので一口。しょっぱい。さすがは食塩泉。
 このあと、牛乳についての話が出た。市販のものはやはり薄い。水で薄めるとまずくなるから脱脂粉乳を加えるところもあるという、ショッキングな話題を聞く。
「濃い牛乳を直売できないのですかね」
「うん、直売すると施設を作ったり、保健所がうるさいし…許可が下りない」
 企業優先の社会では難しいのだという。
 なかなか良い話を聞いていたら、入浴時間が一時間を過ぎた。こんなに長く入ったことない。入浴後にビールをクーッとやりたい人はYHの冷蔵庫にあるから、といい情報を聞くが、おあずけ。トマトジュースでもいいか。

 夕食はまたまた豪華でボリュームがある。名産の山芋も出た。五段評価で四ぐらい。
 食後のティータイムもまたいい。お茶はハーブティー。カモマイルやセージなどをブレンドしたお茶でサイモンとガーファンクルの歌の名前から取った名がつけてある。その名は「スカボローフェア」。初めはすごい味と思うが、飲み終わるともう一杯いきたくなる。不思議なお茶だ。
 同宿者と情報交換。行きの少年の話をしたら驚いていた。同宿者の中には小学生二人がいた。兄弟で、小学3年生と5年生で二人だけで来たのだという。帰りは親が迎えに来るらしい。
 今日はみんな疲れているらしく、22時になると寝室に向かい出す。私もそろそろ休むとしよう。
 ここの布団はなんと、羽毛布団。ふわかふわかしていて心地いい。上段のベッドは自家製の羊毛布団。好みで選べるからいい。列車の通り過ぎる音を子守歌にして眠りに就く。

−脚注−
東北新幹線延伸の影で…: 政府の整備新幹線計画で、新青森までの延伸にゴーサインが出た。が、それと引き換えに東北本線の在来線路は廃止、または第3セクター化されるとの話題もある。長野新幹線を開通させた代償に信越本線を「しなの鉄道」に移管させたことと同じだ。東京−東北・北海道相互に物資を輸送する貨物列車や、夜行列車などの扱い、万が一の路線障害などを考えれば、在来線は温存させるべきではないのか? それだけではない。地元住民の足としての鉄道という視点がどこかに欠けているのだ。すでに時代は「東京直行」ではなくなったはずなのだが…

学生時代は貧乏旅行に限る: 学生は時間はあるけれどもお金がない。そこでできる限りケチる。とにかく出費を少なくして滞在時間を長くしたいのだ。ところが社会人になるとお金は(多少)あるけれども時間がとにかくない。1週間くらい有給休暇をとって鈍行列車の旅ができたらどんなに嬉しいかと思う。


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