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 千尋ちゃん受賞記事に思う

 2001年の大ヒット映画に対する感想です。

02月20日 千尋ちゃん受賞記事に思う

 2月17日、ベルリン映画祭のコンペ部門で、宮崎駿監督のアニメーション映画「千と千尋の神隠し」(訳題:Spirited Away)が金熊賞(Golden Bear Award)を受賞したとのニュースが朝日新聞の1面トップ、社会面等に掲載されました。一方、日本経済新聞では1面小見出し、社会面に掲載されていました。

 ベルリン映画祭において、他の海外作品や実写作品を差し置いて、日本の、しかも動画作品が受賞されたという話題はじつに珍しいものと思われます。それだけニュースバリューの高い話題であることは確かなのですが、ブッシュ米大統領来日の話題、そしてソルトレイク冬季オリンピックの話題を差し置いて、1面トップにアニメーションを話題にしてしまうのは前代未聞ではないかと思うわけです。翌日の「天声人語」や社説、文化総合面でも引き続きこの話題が取り上げられ、他紙と比較してもこの紙面の割き方は破格です。朝日新聞社にはアニメファンがかなりいるのではないでしょうか。

 ところで、ベルリン、ベネチア、カンヌなどで受賞される日本作品には傾向があり、西洋人が認識するところの「ニッポン」、すなわち「サムライスピリッツ」や、近世の情景(Oedo:「お江戸」)を描いたりする作品に評価が高いようです。その点では「千尋…」もそのカテゴリに含められたのかと思うわけです。
 こうした情景を敢えて緻密な色彩を使いアニメーションで描くところ、さらにその中でオリジナルストーリーのファンタジーを展開する部分はそれだけでも非常に個性的です。日本ではこうしたアニメーションは結構あるのですが、外国ではほとんど見受けられません。外国のアニメーション作品はほとんど「未来都市でヒーローが悪人と戦う」とか「童話のストーリーをそのまま動画化」したものばかりですから…。

 一方、日本国内でこの映画がヒットした背景はやはり「時代性」ではないかと考えられます。もちろん「宮崎駿最後の監督作品」と噂されたことや連日流されるコマーシャルなどが影響していることも確かなのですが…。
 「千尋…」で描かれる風呂屋「油屋」の世界はバブル、もしくはバブル崩壊直後の日本そのものです(なるほど、風呂の泡とバブルを引っ掛けているのか…)。千尋ちゃんの両親も「(クレジット)カードがあるから大丈夫だよ」とどこかバブル的な思考を持った人で描かれています。
 すべてがカネで換算された時代が崩壊し、それこそ金(きん)が「土くれ」になってしまった(=金券や証券が紙切れ同然になる)とき、「いま、ここで自分は何を大切にして、どう生きていけばいいのか」を作品では強く問うているのではないでしょうか。

 この作品は「10歳の子どもたち」を対象にしたと宮崎駿氏は言っています。10歳くらいといえば、バブル崩壊以後に生まれた人たちになります。作品に含まれるさまざまなモチーフやメッセージが、バブル後に生まれた子どもたちに対して「世の中、お金だ、自分さえ良ければいいだとか考えている、こんな大人たちばかりで辛いけれど、千尋のように自分を見失わずに生きていってね」と訴えているのではないかと考えられます。

 しかし、逆に「こんな大人たち」の側から観ると、働かなければ生きていけないとイヤな仕事に耐え、苦しんでいる人や生き物を助けるためにさまざまな困難を乗り越えようと行動する千尋ちゃんの姿に強く共感を抱くわけです。不況で倒産や解雇、銀行や生保の経営破たんの憂き目に遭ったり、賃金引き下げや事業転換に苦しむ私たちには身につまされる思いです。作品内でところどころに現れる、現代社会を痛烈に風刺するモチーフに「私たちは今までこんなことをしてきたのか」、「結局は自分で蒔いた種なんだ」、「これはまさしく自分の姿だ」と恥ずかしさを感じるわけです。

 そして、傷ついた竜を助けるために千尋ちゃんは列車に乗って銭婆(ぜにーば)のところへ向かい、そこで助けるヒントを得ようとするわけですが、この列車の旅には「これからの生き方を模索するために、ゆっくり自分と向き合え」という意味が込められているように思えます。

 多彩なモチーフを駆使しながら、それぞれの世代に対するメッセージをひとつの作品の世界で表現し、視点の相違があっても楽しめる、感動できる。この作品が世代を超えて支持されたのはこんな部分にあるのではないかと考えられます。観れば観るほど、奥の深い作品です。
 果たして、この作品のストーリーに含まれる現代日本社会の描写、それに対する作者のメッセージ、そして「想い」は「いかにも『ニッポン』」や「正義VS悪」的思考の欧米人には理解されたのでしょうか。

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