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未完の遠野紀行−1991[その6]
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 これは、1991年春に遠野方面を旅した際の出来事を帰着後記録したものである。幾分10年近く前の記録なので、現在の様子と異なることや、文章に多少のミスがある部分については加筆訂正、もしくは付記にて補足を加えた。

6・遠野を巡る-2
〜廃校舎〜

廃校舎(旧土淵小学校山口分校)  水車小屋を離れ、再び自転車を滑らせる。下り坂になっているので非常に楽だ。手元のカメラを出し、ファインダーを覗きながら下ることを試みる。その瞬間をシャッターに収めるが、振り返ってみればかなり危険なことをしたものだと思う。

 岩手和野バス停よりも山口寄りに古びた木造の校舎が見える。遠野市立土淵小学校の旧山口分校である。土淵小学校は先ほどの伝承園近くにあるのだが、和野や山口から自転車でも2、30分もかかる距離なので、分校が設置されたのだと思われる。
 どうも過疎で小学校の分校が廃校になったらしく、硝子は割れ、煙突も取り外されているが、カーテンは付けっ放しになっている。好奇心を旺盛にして、早速廃校舎へ入ってみることにした。が、先客がいた。先程の横浜の先生ご一行だった。

 雨ざらしになって固くなっている木の扉を開ける。材木が散乱している。普通なら上履きで入る所だが、あえて土足で上がらせてもらう。廊下には白線が引いてあり、ここで小学生は走り回っていたりしていたのであろうと想像するには十分な風景だ。

 教室に潜入。机らしきものが4、5個散らばっている。教卓もあった。ここで先生は何を教えたのであろうか。生徒は何を質問したのであろうか。ふとそういったことを考えてしまう。
 黒板も残されている。書かれているものは『○○バカ』、『○さんが好き』と相合傘。これは地元の中学生か観光客が書いたのだろう。中にはここで書けないような卑猥な言葉や絵、『神奈川から来ましたよ〜ん』などという字もあった。白墨の他にマジックで書いてあり、マジックインキが床に落ちている。廃墟だと思って好き放題なことをやっているが、どうも地元の集会場、倉庫として使われているようだ。

 隣の教室には跳び箱やマットがあった。講堂がないから体育の授業は外か、この教室で行っていたらしい。マットはもう中身のウレタンが飛び出ているし、白い布にはマジックで落書きがしてあった。

 また別の部屋は宿直室か用務員室がある。ここには全教室の配電盤があり、『東芝コンデンサー』の文字が伺える。試しに漏電遮断機とブレーカーを『入』にしてレバーを引いてみたが部屋の蛍光灯はつかなかった。元のもとが切られているらしい。この部屋にはレコードプレーヤー、スピーカー、ラジオなどがあった。分校の廃止が決まってから、これらの物件は再利用されずに廃棄扱いとなったのだろうか。
 トイレを覗くと汲み取り式でもちろん中身は無い。他の部屋には学校祭に使ったボードなどが収まってあり、鍵が掛かっていた。ほうきや塵取りがそのまま放ってあったりもする。

 校庭に出ると、端の方に高いポールが立っていた。上にはスピーカーとアンテナーが取り付けてある。また反対の方には防災支部らしい建物が立っていた。このスピーカーは防災同報無線で防災情報を流し、いつもは昼にはサイレン、夕方の6時になると阪田寛夫作詞、山本直純作曲の『夕日が背中をおしてくる』の合唱レコードが遠野の夕暮れ空と広い水田と山々に流れる(当時)。夕方、この曲を聞いたが、何とも寂しげな曲に聞こえた。夕暮れのあの寂しさが、この曲で表現されていて哀愁を漂わせる。高音が何となく震えて聞こえるので、寂しさよりもむしろ、怖さのようなものも込み上げてくる。

 学校跡の校庭に置いた自転車を走らせる。過疎化されていくにつれ、こういった廃校舎も増えていくことだろう。できることならこうした木造の校舎を、後世のために保存してほしいと思ったりもする。
 割れたガラス窓から差してくる光が床に当たっている情景が何とも印象的だった。


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