My Trip/ 路線バスを乗り継ぐ1990-3 / 05.05公開 | |||||||||||||
1990夏 蕨〜高崎 路線バスを乗り継ぐ-3 | |||||||||||||
|
1日だけの小さな旅から、数日がかりの旅まで、日記風に描く旅行記です。 熊谷駅(10:05)→太田駅(10:55)
太田駅行き 東武バス 車号7438 540円 わずか10分の乗り継ぎ時間で、駅前通り沿いにある乗り場から太田行きの東武バスに乗り換える。熊谷にたどり着いた余韻に浸り、私の大好物である銘菓五家宝を買い求めるなどという余裕は当時の私たちにはなく、ただただ乗り継いで目的地へ向かうことだけを考えていた。 熊谷から太田へ至る道路にはバイパスと旧道があり、私たちが乗ったバスは旧道を走っていく。ちなみにバイパス経由は妻沼止まりで「急行バス」と呼ばれている。
ここまでくるとE君と特に会話をするわけでもなく、車窓を眺めているのみだった。私は沿道の薬局のドアに「肥後ずいき」と力強い筆文字で書いてあるポスターが目に入り、「肥後ずいきって何だろう…?」と疑問に感じ、旅程を記したメモの隅に「肥後ずいき」と書き込んだ。 さらに沿道を眺めていると「白石バスセンター」なる看板を発見。一瞬バスの車庫か停留所かと思うが、風呂桶を販売している会社(白石風呂店)だと分かり納得。 バスに乗っていると、近くの風景を観察することができるから面白い。列車とはまた異なる車窓展開の面白さを知る。 かつて東武鉄道唯一の非電化路線で1983年5月に廃止された熊谷線の終点、妻沼を過ぎ、刀水橋を渡れば「鶴舞う形の群馬県」に突入。運賃表示機も13区間まで運賃が表示され、始発から乗った私たちは540円を運賃箱に投げ込んで太田駅前に降り立った。 太田駅(11:18)→伊勢崎駅(12:16)
伊勢崎駅行き 群馬中央バス 690円
ここまで接続は順調、引き続き路線バスを乗り継ぐ。
車内は背の高いチェック柄のシートが前向きに連なる、典型的な地方路線の座席配置。今まで乗ってきた車両はすべてシートが肩までの高さで、特に東武バスでは座布団が平べったく固い座席になっており、長い時間を乗り通しているうちに尻が痛くなってしまった。 新伊勢崎を手前にしてようやく市街地に入り、賑やかな商店街を走り抜けて伊勢崎駅に到着。乗車時間も長く運賃もかかった割には乗ったときの印象が薄く、当時の記憶を一生懸命思い出そうとしているのだが、出てこないでいる。 伊勢崎駅(12:28)→前橋駅(13:05)
駒形経由 前橋駅行き 群馬中央バス 620円
出発から6時間が経過した。目的地はもう間もなくとなった。
バスは駒形バイパスの南側旧道を走る。田中島を過ぎ、宮子に近づくと遠くに伊勢崎オートレース場が見えてきた。 今では「山の音楽家」に変わっているが、この話をすると「え、そんなわけないだろ?」と返答されることが多々あるが、忘れもしない。翌日のレコード鑑賞の授業で「かっこうワルツ」を聴いたときに「伊勢崎オートの曲だ」と思わず言ってしまったことを。 駒形、天川大島を抜けるといよいよ前橋の市街地。のどかな街道をひたすら走ってきたバスはいよいよ賑やかな街中を走っていく。道路沿いを行き交う人の数が増えてくるとなぜか安堵感が襲ってくる。 13時過ぎ、前橋駅に到着。台風一過の強い陽射しが容赦なく照りつけ、冷房で冷えきった身体は10分もしないうちに汗ばんできた。 前橋駅(13:15)→高崎駅(13:49)
芝塚経由 高崎駅行き 群馬バス 490円
前橋から高崎にいたる路線は4路線ある。 どの路線に乗ろうかと迷うところだが、バイパス経由、問屋町経由、京目経由ともに本数が少なく、15分間隔で頻発している芝塚経由に自ずと選択肢がしぼられた。 1985年頃、高崎〜前橋間の運行本数は非常に多く、芝塚経由は日中でも10分間隔で運行されていた。うち1時間に2本ほど群馬中央バスの車両が入ってきて、この会社の車両にあたると得をした気分になった覚えがある。当時、冷房が入っているバスは群馬中央バスしかなかったからだ。 あれから5年。上越線、両毛線の運行本数が増えるにつれ、バスの運行回数は大幅に減っていた。バイパス経由は1時間に1〜2本足らず、さきにも触れたように芝塚経由も15分間隔。一抹の寂しさを感じつつ、冷房付きの中央バスがやってくることを期待しながら停留所で待っていると…。
銀色に赤帯の群馬バスだった。乗車口の後ろ扉は折戸で、車内ドア近くには扉を開けるレバー型のスイッチがついていた。ワンマンならぬツーマン仕様だ。
非冷房、板張りの床、ビニールカバーのかかった深いブルーのシート。さらに運転席近くの両替機は100円専用、運賃箱もレバーが付いていて料金を入れるごとに運転手がレバーを引く手動タイプととても趣き深い「古いバス」である。 冷房がなければ窓を思い切り開ければいい。窓を開けても入ってくるのは台風一過特有の熱風。風を切る音に加え、けたたましいエンジン音に会話さえできないが、6時間近く寒いくらいの冷房に浸って鈍った身体には、こうした自然の風がちょうどいいのかもしれない。 井野川近くのイタリア料理店横を通り過ぎる。数年前「エスト」という名前だったが、改称されている。この店でレモンパイなるものをはじめて口にし、その甘酸っぱさにえらく感動したが、極私的な昔話だ。
「次は島前。横断は見るくせ待つくせ止まるくせ。この交通キャンペーンは地元ともに歩む高崎信用金庫の提供でお送りしております」
ついにバスは高崎のメインストリート、田町通りをゆっくり走り抜ける。かつては田町停留所で待っていれば高崎発のほとんどのバス路線に乗ることができたため、停留所には買い物帰りの人が群がっていたが、藤五伊勢丹が閉店して以来、ずいぶんと淋しくなった。 13時49分、目的地の高崎駅西口に到着。走行距離約143.7キロ、所要時間7時間33分、9回の乗り継ぎで運賃3560円の旅の片道が終わった。
駅前に降り立ち感じたのは、乗り継ぎの達成感というよりも、ただ暑い、涼しいところでひと休みしたい。腹がすいた、冷たいものが飲みたいというものだった。
コンテンツ内の音声、およびSMILをご覧になる際はRealPlayerが必要です。 |
|