My Trip/ 未完の遠野紀行−1991-3 / 91.3記録 00.7改版 | ||||||||
未完の遠野紀行−1991[その3] | ||||||||
|
これは、1991年春に遠野方面を旅した際の出来事を帰着後記録したものである。幾分10年近く前の記録なので、現在の様子と異なることや、文章に多少のミスがある部分については加筆訂正、もしくは付記にて補足を加えた。 3・遠野への途
〜慌しい客車列車の車掌〜 小牛田に到着後、次の列車まで少々の待ち時間があるので、ホームの立ち食いそばをいただく。とても味が薄く物足りないので唐辛子を入れたところ、逆に唐辛子の量が多すぎて汁を飲むときにむせる。 食後、ベンチに座っているとポツポツと雨が当たった。雲行きが悪いのでもうすぐ降りそうだと思っていたときであった。 昼過ぎに乗った東北本線一ノ関行きはドアを手で開けるようになっている(クハ416-1)。閉まるときは自動なのだが。車内の暖房の温度が低くなるのを防ぐためである。これを「半自動」というらしい。駅を出るとかなりの速さで走る。実はそれほど速くはないのだが、先ほど乗った遅いローカル線と比べてそう感じるのだ。 列車は石越に停車。ここから鉱山まで行く電鉄が走っている。電鉄用のホームを見ると… 花巻へ行く盛岡行きの列車は、今では珍しくなった赤色の客車(50系・オハフ50 2370)を使っている。発車するときに『ガクン』と揺れて、車体がみしみし言うのも客車ならではである。けれどもいったん走り出すと結構速かったりする。普段は貨物列車を引っ張るような機関車がわずか4両足らずの客車を牽くのだから、スーッと走ってゆく感じで心地良い。 車窓からホームを見ていると、車掌が忙しそうに動き回っている様子が伺える。ローカル線特有の忙しさだ。見ているだけでも慌しさが伝わってくる。切符を端の車両まで走って回収していたと思いきや、笛を鳴らし、ドアを閉めて、 宮沢賢治の出生地として知られる花巻に到着。ホームに降り立つと鹿(しし)踊りの衣裳と『500』と書かれた「キロポスト」という標識がある。東京からちょうど500キロの地点にあるのがここ花巻である。駅の待合室にあるJR系列の食堂もズバリ『ステンション500』というネーミングが付いている。この店にある「駅長ラーメン」なるメニューに人気があるという。 待合室の逆方向にもユニークな店がある。『和風ふぁーすとふうど はつかり亭』。和風を表現するために、ファーストフードを平仮名標記にしているようだ。 ついに本日最後に乗車する列車、釜石線に乗る。思えば、昨日の夜から列車に乗り通しだった。 エンジンが唸り出すと列車は滑るように動いた。カーブを曲がると再び唸り出す。床下からの振動が身体に響く。新幹線の連絡駅、新花巻を発車すると席がほぼ満席になった。列車は結構きつい坂を登っていくようで、後ろの車両が少し低く見える。確か、昨年この釜石線に乗ったとき、普通列車でありながら車内販売があったことに驚きを覚えた。「毘沙門餅」なる菓子を売っていたのをふと思い出した。 進行方向左側の車窓をじっと眺める。煉瓦造りのトンネルの入口が見えたり、煉瓦造りの橋桁が見える。釜石線の前身、岩手軽便鉄道が走っていた名残りである。レールの幅が、今の線路よりも30センチ近く狭く、まるでおもちゃのような車両が走っていたという。宮沢賢治の作品『銀河鉄道の夜』がこの岩手軽便鉄道をモチーフにしたのは結構知られている話だ。 隣の国道を走る乗用車に抜かれるような重たい坂を抜け、平坦な道に入ると列車は今まで以上にスピードを出す。エンジンの唸り声が消えて車内は『コトンコトン』というジョイント音と話し声だけになった。 揺られること1時間、遠野のホームに降り立つ。昨日の夜からおよそ18時間も列車に揺られていた。疲れているのは確かだが、目的地に着いたという歓びでふっ飛ぶ。 これからYH(ユースホステル)へ向かう。駅から距離があるのでバスを使うことになるが、次のバスまで1時間待たされることになる。じっとバス停で待つ。風が吹いてきて寒い。足を震わせていると、駅舎からリュック姿の青年が4人歩いてきて、バス停の時刻表を見ている。 薄暗くなった空の下、引き続き駅前のバス停で待つことにした。が、相変わらず風が強いので、すぐそばの観光案内所で待つ。観光案内所にはバスの切符を売る人と、民芸品などを売る人がいたが、「もうすぐ閉店ですので」と店員。『蛍の光』のBGMが鳴り出す。入って20分程で追い出されてしまった。あとは風の吹く薄暗いバス停で待つほかない。 18時22分、定時にバス停に来た。が、行き先表示を見ると何か違う。運転士に聞いてみる。「伝承園前に行きますか?」 バスは夜道を突っ走る。ほとんどの路線は国道を経由するが、このバスを含め何便かは遠野病院の先から飯豊という町を通る。ひび割れた舗装道路を突っ走る。車内は上下にガタガタ揺れる。この揺れは地震体験車の震度5に匹敵するだろうか。それでもスピードを落とさない。この怖さに外をずっと見ていたが、東京や埼玉ではあり得ない暗さにまた恐怖をそそる。まさに『闇』なのである。この『闇』の中をバスはガタガタ揺れながら細い道を突っ走っているのだ。 10分ぐらいでガタガタはおさまった。このまま乗っていたら車酔いを起こしそうだ。 「YHでしょ。向こう(伝承園前)のバス停まで行くと遠回りになっちゃうから。ここで降りてくれるかな」 −脚注−
キハ58形1502番: 1968年新製。国鉄気動車保有5000両目を記念する車両として知られる。青森、秋田、山形、盛岡を転々とし、再び秋田に戻る。急行「よねしろ」用に塗色や内装を変えている。
コンテンツ内の音声、およびSMILをご覧になる際はRealPlayerが必要です。 |
|