月刊看板 / 別冊看板-9 / 発行 00.02 | |||
別冊看板 第9集 歪んだ意図〜国民年金啓発看板ふたたび〜 |
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別冊看板第7集「複合的誘惑の罠」に続く、国民年金啓発看板についての考察です。 「複合的誘惑の罠」と題して、国民年金啓発看板についての考察をしたのは1999年の5月であった。当時は看板の出稿元、設置場所を「某」と伏せていたが、その後、ネット上でこの看板の出稿元、設置場所が明らかになったこともあり、今回からは実名を挙げて考察してみたい。 これが、川口市国民年金課が出稿した国民年金啓発看板の2000年版である。 昨年に引き続き、「飛ばし」続けている看板だ。勢いはとどまることを知らない。あくまでも別な意味で、である。
率直に言って、さっぱりわからないキャッチだ。百歩譲って煎餅屋の広告でならギリギリ使える、というキャッチである。国民年金に対してよくもここまで大胆かつ意味不明なクリエイティブができたかと思うと、逆に感心してしまう。自分なりに考えると、「25年間年金料を払っていれば、65歳から給付するから、払ってね」という意味があるのだろうと思う。しかし、「なんで65歳から25年間年金料を払わなきゃならないんだよ。もらう方にまだ払わせるのか!」と違った解釈をされてもおかしくはない。 さらに、この看板のキーワードである「バリバリ」も意図しているところがつかみにくい。「バリバリ」の意味を小学館の「大辞泉」で調べてみたところ、
とあった。字義的には3番目だろうと思うが、この看板のキャッチに字義を併せてみると、
となり、さらにチンプンカンプンになる。どう考えても、政府の借金財政では「バリバリ」に年金問題を取り組んでいるようにも見えず、かといって「バリバリ」と払おう、などと国民、いや市民に呼びかけても、「本当に年金をもらえるのか? それよりも65歳まで生きているかわからない」、「リストラで会社の人員整理に遭った上に就職難。家族を食べさせる金の工面でも苦しいのに、そんな『バリバリ』だなんて…」と返される。看板の中で言葉が空転している。 なぜ、このような空転する看板を昨年に引き続き連発できるのか。それは地方公共団体の財政にあるという。国民年金業務は社会保険庁の機関委任事務として地方公共団体が行なっているため、同じ役場の中でも国民年金関係のセクションとそれ以外のセクションでは金回りに違いがある。すなわち、年金関係セクションは、国から予算が回ってくるため、結構裕福なのだという。市の広報にきれいな4版プロセスカラー刷りのチラシが折り込まれたり、「年金カレンダー(はっぴぃらいふ)」と称するものを貰えるのは、年金徴収不足に危機感を覚えた国が、年金啓発に予算を置くようになってからの話である。 川口市の年金啓発のキャンペーンは、他の地方公共団体のそれに比べて、非常に積極性があることは確かだ。右の写真は、銀行のそばに設置された看板であるが、このほかにも駅ホーム、沿線など市内各所に設置してある。
●関連ページ しかし、肝心な「年金を払おう」というメッセージがどれだけ市民に伝わっているかは不明だ。無理に力を入れすぎて、本来の啓発の意味からどこか遠くへ行ってしまっているのではないだろうか。目立たせることだけに気を奪われ、看板を出すことの意図が歪んでしまった例としては十分すぎる。 取材・調査・撮影2000.2.11、執筆2000.2.20
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