08月03日
郵政民営化議論に水を差す(4)〜「こんな程度」の温度差〜
「こんな程度の改革ができなくて行財政改革はできない」
これは8月2日の参議院郵政民営化特別委員会で首相が発言した答弁です。
われわれの預けたお金が密接に関わっているにもかかわらず「こんな程度」とは不用意な発言であったと言わざるを得ません。
落としどころはいくらでもあるのに、聞く耳を持たず、ひたすら持論だけをしゃべり続けた挙げ句、政局に結び付けて議員の不安を煽る首相答弁は不誠実です。
また、異論を唱える議員に対し、次の選挙では党の推薦をしない、あるいは金銭をチラつかせたる工作や、民営化を宣伝する新聞折り込みチラシの企画段階で、「子供や主婦層、高齢者層といったIQの低い小泉内閣支持基盤に認識レベルを高めさせる」とのマトリクス分析がなされた事実など、議論の内容とは全く関係のない圧力をかけたり表面的な印象操作を行なっている点も不誠実です。
本当に郵政事業民営化が国家財政の正常化に必要である施策であるならば、議員やわれわれ国民に圧力や印象操作をかけたりせず、ことばをもって真摯に説得することが先決であろうと考えられます。持論ばかりを顔を赤くしながら語ったところで他人を説得することなど、できません。
しかし、関連する国会中継を視聴していても、全く納得がいかない、むしろ「これはまずいのではいか」と不安だけが膨らんでいきます。すなわち、不安を解消するための「説明」もないまま「改革なくして成長なし」、「民間でできることは民間に」という5年前から言い続けているお題目を壊れたレコードのようにエンドレスで唱えながら、周囲を思考停止に導かせて強行突破をはかっているだけです。
ついには「政府の民営化法案に賛成」が「郵政改革を支持」と意図的にすりかえて喧伝する始末…じつにお粗末です。
とはいえども、参議院の採決が刻々と近づいています。しつこいようですが、ここで改めて郵政民営化議論の疑問点・問題点を列挙してまいります。否決、可決いずれにしても議論の中で出てきた数々の疑問点・問題点については今後もじっくり考える必要がありますし、これらの疑問点・問題点があやふやになってしまったら、真の意味での改革など絵空事に終わるだけです。
27万人の行方
★公務員は削減すれども:
→ 郵政職員の給与は税金から支出されていない
→ 税の支出が減るという「まやかし」
→税金から給料が出されている国家公務員の削減or賃金カットが必要になる
★職員はどうなる?:
→ 各会社への振り分けは円滑に行なわれるか?
→ 簡単に切り分けられない職務範囲
→ 不透明な身分保障(NTT、JR、JTと同じ身分保障にはなれない)
→ 採用方法の変化 → 民間人の投入、アルバイトの増加
→雇用形態、人事形態を変えなければ意味がない
★年金・保険制度:
→ 国家公務員共済組合から厚生年金へ徐々に移行
→ 即座に年金一本化へ結びつける必要あり
→ 一本化移行できない場合…国家公務員共済の財政難?
→ 新たな国民負担が発生する可能性?
→最優先は一元化を含めた年金問題の解決である
350兆円の行方
郵貯の預り金、簡保の積立金は350兆円、350兆円とお題目のように唱えていますが、これらはまぎれもなくわれわれ国民のお金。
以前は日本国国債に金利を上乗せ(金利には税金が使われている)して運用していましたが、現在は市場原理に則って運用されています(※この部分加筆訂正)。
しかし、郵貯が膨大な国債の受け入れ先になっていることには変わりなく、たとえ民営化されたとしても国債の残高、発行高が減らない限り国の財政難は続きます。
★一般企業に貸し付け:
→ 利息で運用益? → 安全性の疑問
→ 民営化された特殊法人(旧道路公団など)への貸し付け → 結局変わらず?
★国債の金利上乗せ廃止:
→ すでに行なわれている
→ 上乗せ分の税支出は抑制された
★民営化後、国債の受け入れ先は?:
→ だれが国債を引き受けるのか?
→ 引き受け義務化?→民間金融機関 and 国民
→ 国の借金を国民・企業に代理返済させる布石としての民営化
★郵貯・簡保会社が国債の放出:
→ 金融市場混乱、国債の評価額低下?
→ 国民に税負担+国債購入負担のツケが回ってくる?
★郵便会社各社株の公開:
→ 外国機関投資家の買占めは阻止できるのか?
★預入限度額の引き下げという対案:
→ 「入口改革」では最も簡単、かつ効果的
→ 預金狙いの「利権」には痛手?
→取水制限をしても節水しなければ水不足は続く
窓口会社の行方
巨大な組織を分社化することは組織のスリム化と民業圧迫の批判を回避するために必要だと主張しています。会社を分けることで何が改善され、何が悪くなるのか、まだまだ議論は必要です。まずは全国2万4千の郵便局のフロントを担う窓口会社です。
★設置義務で安泰か?:
→ 過疎地局の維持は可能か? → 食い潰される社会・地域貢献基金
→ 赤字経営の圧力、廃止したくてもできない苦悩
★手数料ビジネス:
→ 代理店業務の不透明性 → どこまで手を出せる? 手を切る?
→ 貯金の預入、引き出しに手数料がつく可能性
→ 他業者との提携による新たなパートナーシップ&利権
★多角経営化:
→ 新事業参入で収益確保?(特に福祉介護事業)
→ 同業他社の経営圧迫(特に中小零細企業、個人事業主)
★特定郵便局は:
→ 固定資産税の課税 → 税収に貢献 & 経営に圧迫?
→ コンビニ化 → 改装費用の負担増、改装できない個人宅地
→ 業務縮小 → 貯金保険を扱わない簡易局化?
→ ネットワークは誰のもの? → ルーターがあってもケーブルがなければ…
→ 移動郵便局の登場? → 過疎地対策の切り札 → 郵便会社との仲違い
★郵便・貯金・保険会社との関係:
→ 高まる専門性 → 接客、販売能力向上
→ 強まるセクショナリズム → 連携の力は向上できるか?
★他業者参入の余地:
→ コンビニ業界の参入
→ 設置義務という「縛り」
→ 営利企業のみならず、NPOの参入可能性
→オリジナリティなくして未来なし
郵便会社の行方
ユニバーサルサービスを義務付けられる郵便会社。果たして同業他社との公正な競争が実現するのでしょうか。
★競争また競争:
→ 価格設定の変化。制度(料金、取扱)一本化
→ 公平から差別化へ
→ 価格破壊による料金低下 → 輸送下請けの苦悩
→ 法律の縛りで思うほど自由にならない?
★不採算サービスの統合廃止の可能性:
→ ポスト取集回数の減少、廃止増加(赤字ローカル線本数削減に同じ)
→ 第3種、4種は継続可能か? → 食い潰される社会・地域貢献基金
→ 過疎地・離島地域への送達割増料金の設定
→ 崩れるユニバーサルサービス
★多角経営化:
→ 新事業参入で収益確保?(発送代行)
→ 国際物流事業の参入 → 近隣諸国への参入 or 他国企業から買収
→ 同業他社の経営圧迫(特に中小零細企業、個人事業主)
→ 中小零細企業の買収に拍車?
★窓口会社との関係:
→ 窓口会社への手数料負担 → 料金値上げ?
→ ネットワークは誰のもの? → ケーブルがあってもルーターがなければ…
★他業者参入の余地:
→ 国内企業ではなく、外国企業との競争に晒される。勝算の余地は?
→ 郵便線路(ネットワーク)に便乗する社
★「官業」のクオリティ:
→ 公的資格「郵便認証司」の付与対象の曖昧さ
→ 内容証明、引受証明などの公的証明機能は維持されるか?
★手紙、はがきは消えるか?:
→ テレビの出現でラジオは消えたか?
→ Webの出現で新聞は消えたか?
→ 必要とする人、必要とする場所、状況がある
→ メディアの特性を考慮した議論を
→ユニバーサルサービスの維持と他業者との棲み分けがカギ
貯金会社の行方
われわれ国民の230兆の預り金を運用する貯金会社。注目度も高いのですが、具体的に何をやるのかは未だ不透明です。
★資金運用:
→ 国債一本から国内外債券、株式による運用
→ 公社勘定が重圧? あるいは新勘定との格差?
★多角経営化:
→ クレジット事業、融資、キャッシング・ローン事業、證券代行事業…
→ 同業他社の経営圧迫
★窓口会社との関係:
→ 窓口会社への手数料負担 → 手数料設定 or 値上げ
→ 不採算窓口との代理店契約解消
→ 独自の支店 → 窓口会社業務への参入 → 同士討ち・衝突可能性
★他業者との競争:
→ 国内企業ではなく、外国企業との競争に晒される。勝算の余地は?
→民間化するには荷物が重過ぎる。預金量の抑制を
→既存の民間金融機関の地方過疎地に参入できる制度づくりを→選択肢を増やせ
保険会社の行方
長期に保険料を運用する保険会社。競争相手も非常に多く、最も苦戦が強いられます。
★資金運用:
→ 国債一本から国内外債券、株式による運用
→ 公社勘定が重圧? あるいは新勘定との格差?
→ 地方自治体への融資は継続されるか?
★多角経営化:
→ 同業他社の経営圧迫
★窓口会社との関係:
→ 窓口会社への手数料負担 → 手数料設定 or 値上げ
→ 不採算窓口との契約解消
→ 窓口会社業務への参入 → 切り分けができるのか? 衝突可能性
★他業者との競争:
→ 国内企業ではなく、外国企業との競争に晒される。勝算の余地は?
利用者であるわれわれの心構え
★感情に左右されない:
→ 冷静に理解、冷静に判断、冷静に実行
★信じるものはどこにもない:
→ だからこそ「信じられるもの」を発見、創造する
★地方過疎地、高齢者へのまなざしを:
→ 都市の傲慢に気づけ
★負担に耐える:
→ 手数料、料金が高くなっても耐える
→ マゾヒストにはなるな
★がまんの限界を知る:
→ 逆ギレ禁物
第3の選択肢(時代の斜め後ろを行く)
★協同組合化:
→ 国から完全に離れる
→ 郵便協同組合、郵便組合貯金、郵便共済
→ 利用者が出資金を払うことでサービスを利用
→ 組合員が事業運営に参加
→ 他の組合(JAなど)と組んで地方過疎地の金融サービスを提供
→ 自助努力と相互扶助の共存・共生
→ 公益性の担保
関連ページ
→郵政民営化議論に水を差す(3)〜最悪のシナリオ〜
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→郵政民営化議論に水を差す(1)〜民営化≠自由競争〜