最近のイチ押し ダメ出し / No.1083 / 2003.08公開 | |||
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最近のイチ押し ダメ出し 1083 「便利って本当にいいことなのかな」
IT(情報技術)の進展は目まぐるしいものがあり、日常生活のいたるところにその技術が使われています。 8月25日 「便利って本当にいいことなのかな」
表題のことばは先日8月23日、TBSラジオの「土曜ワイドラジオTOKYO」で放送作家の永六輔氏が、インターネットや携帯電話を話題にしていたところで語ったことばです。 さて、いよいよ25日より住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)の2次稼動が開始されますが、それに併せて、住民票の取り寄せ等で使用する住民基本台帳カード(住基カード)の交付も全国各地で開始されます。
キャッシュカードと同じ大きさをした住基カードにはICチップが組み込まれ、そこに個人情報などが記録される仕組みとなっています。このICチップは400字詰め原稿用紙約20枚分の情報を記憶できる能力を持っているそうです。 実際、私は「Suica」を使っていますが、これは正直に便利と言えます。パスケースからカードを出さなくても自動改札を通過できる、精算用のお金をカードに記憶する(チャージ)こともできる、従来のオレンジカードやイオカードと異なり端数が出ない、使用済みカードが生じないためごみの心配がない、履歴が印字できる…など、メリットを挙げればいくらでも出てきます。
それでは住基カードはどうでしょうか。現時点でカードを持っていてできることは「住民票などの証明書を全国どこでも簡単に発行できるようにする」、「転出入の手続きが簡単にできる」です。一部の地方自治体では「市立病院の診察券として使える」、「健康診断や予防接種の記録として用いる」などを計画しています。
しかしよく考えてみれば、住民票なんて年に何十枚も取得するような書類ではなく、転出入もそう頻繁に行なうものでもありません。しかも本人確認のできる証明書を提示できればカードがなくとも交付ができます。果たしてカードは今すぐ必要なのか、という疑問が残ります。
さらに、ICカードの記憶性を用いてさまざまな行政サービスに活用できるようですが、必要以上に個人情報が集中し蓄積してしまうなどの問題があります。病院の診察券や健康診断の記録に使うということは、個人の体重から体質、いつ何の病気にかかって、どんな薬を処方されたかが蓄積されることであり、しかも簡単な操作で蓄積されたデータを呼び出せるということです。
確かに使いようによっては便利なのかもしれません。けれども、なにかが違う…。「Suica」の便利さは簡単に受け入れられました。六輔さんのように携帯電話やインターネットが肌に合わないわけでもなく、すんなり導入して活用し、その恩恵を受けています。 セキュリティの問題、個人情報が一極集中することの問題、そしてこれらの情報が本人の意図しないところで引き出され、使用されることの危険性…住基ネットにはまだ解決しきれていない問題点がたくさんあります。解決や改善がいまひとつ不明瞭な段階で、個人に対するインターフェイスを設けることは時期尚早であると考えます。はっきり言えば、便利さと引き換えに得るリスクが大きすぎるのです。
冒頭の「便利って本当にいいことなのかな」ということばは、便利さに慣れた人からすれば「いいに決まっているじゃないか」と突き返されるかもしれません。けれども、便利であることが当たり前になってしまっている時こそ、この問いについて深く考える必要があります。
最後に余談を。 たとえ不便でも、守りたいものがあります。
関連・参考サイト
→総務省・住民基本台帳システム
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