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 郵政民営化議論に水を差す-(2)

08月28日〜真の敵は誰?〜

 ・11月18日より、ローソンでの宅急便および関連商品の取扱を停止します。
 ・8月17日、ローソン本部は宅急便の取扱店契約の中途解約を通告しました。
 ・私たちは公平な、公正な競争がしたいのです。
 ・日本郵政公社は独占事業と税制優遇で利益を上げています。
 ・これが公平で公正と言えるのでしょうか。

 8月26日、全国紙の全面広告にヤマト運輸の意見広告が掲載されました。これは、11月中旬から、コンビニエンスチェーン「ローソン」で郵便小包「ゆうパック」の引受を開始することにともない、ヤマト運輸「宅急便」の取扱が停止されることを受けて出されたものです。

 同日、日本郵政公社はWebサイトで次の趣旨で公式見解を出しました。

 ・市場シェア30%を超える「宅急便」を不当に圧迫する状況にはない。
 ・「宅急便」と「ゆうパック」どちらを利用するかは顧客の判断。
 ・公社は全国サービスの実施等で民間企業にはない負担を負っている。
 ・税制で優遇されているから安い料金を設定しているという考えはない。

 意見広告が掲載された翌日から、新聞、テレビ等のマス・メディアはこの話題を大きく取り上げていますが、「民業圧迫」、「フェアではない」と一点張りの論調で報道されています。

 かつて、郵便局の窓口に小包を出して不快な思いをした方は結構いらっしゃると思います。ヒモが掛けていないからダメ、荷札の書き方が悪いからダメ、いつ着くかわからない…などと居丈高な態度で屁理屈ばかりをこねた上、舌打ちをしながら面倒臭そうに荷物を引き取る職員の姿を見て、やり場のない怒りを膨張させた方も多いのではないでしょうか。
 また、雑誌「暮しの手帖」の「宅配便をテストする」という特集記事で、磁器製の茶碗を送ったところ、郵便小包で送った全ての茶碗が壊れていたと批判されたこともありました。かつての国鉄同様、「売ってやる、乗せてやる」的思考が蔓延していたのは確かです。

 その一方で、電話をすれば荷物を取りにきてくれる、翌日に配達される、セールスドライバーの対応は親切…と郵便局の「逆」を実行することで「宅急便」はシェアを獲得していきました。経緯についてはヤマト運輸元会長(現ヤマト福祉財団理事長)、小倉昌男氏の著作に詳細が書かれていますが、既存のサービスのあり方を疑い、顧客の視点に立った経営をしたことは、運輸業界だけでなく、他の業界にも大きな影響を及ぼしました。

イメージ  しかし、郵便局も黙ってはいませんでした。重量、サイズ、梱包に対する規制を緩和したり、集荷体制や輸送体制を見直すことによって、配達スピードはほとんど民間宅配会社と変わりありませんし、対応も以前とはずいぶん変わりました。私も個人で郵便局の集荷サービスを利用していますが、担当者は窓口の職員以上に料金や制度をよく知っていますし、たった小包一個なのに…と思うほど丁寧な対応をしてくれます。
 あの舌打ちしながら小包を引き受けていた時代とは隔世の感があります。

 すなわち、ヤマト運輸が「宅急便」を始めたことによって、郵便局のサービスや対応が大きく変わっていったのは確かです。と同時に、郵便局が新たなサービスを展開すれば、ヤマト運輸がそれを追いかけてさらに便利なサービスをつくり出していきました。
 「公正」や「公平」であるかは議論の余地がありますが、つねに両者が相手を意識しているからこそ、われわれはより便利で快適なサービスを受けることができるわけですし、お互いが相手に太刀打ちできないことを承知の上で果敢に挑戦している姿にわれわれは共感を覚えるのです。

 しかし、今回の意見広告や新聞記事の社長インタビューを読んで、かつてのヤマト運輸にあった気概はどこへ行ってしまったのでしょうか。「契約を打ち切られてしまいました」、「公社は信書を独占事業にしているから安くできるんだ」とどこか後ろ向きで、被害者意識を肥大させているように思えてなりません。
 以前ならば「コンビニに堂々と『宅急便』と『ゆうパック』を並べればいい。きっとお客は『宅急便』を選ぶだろうし、それだけの自信はある」と言ったに違いありませんし、われわれはそのことばを期待していました。

 ところが「民業圧迫、民業圧迫」と連呼することで同情を買ってもらおうということに力を注いで、肝心の商品を改良しよう、そして買ってもらおう、というベクトルが文面から見えてこないのは残念です。

 実は、郵便事業の民営化が具体的になればなるほど一番苦しい立場になるのは、今まで「民業圧迫、民営化妥当」と郵政省や郵政公社をライバルにして成長を続けてきたヤマト運輸や他の同業者ではないのかとふと感じました。

 どうも日本にはかつてより「お上」に対する敵対、抵抗意識があって、「お上」の圧力に屈しないで抵抗することは勇敢だ、そして抵抗する姿に共感、同情を覚える傾向があります。しかし「お上」が下(くだ)ろうとして、妙に愛想がよくなってくると、抵抗意識が薄れて、どこか相手に対する妥協とあきらめが見えてくるように思います。

 「お上」への抵抗の結論を「民営化すれば万事休す」へ求めるのは、本質的な問題を闇に隠してしまいはしないかと思うのです。もっと言えば、もし郵政公社が民営化されたとき、ヤマト運輸や同業他社は新しい民営郵便会社を今までと同じようにライバル視するのか、という疑問があります。

 というのも、日本国内でしのぎを削っているうちはまだいいのですが、しばらくすると必ずやってくるであろう存在――外国の郵便・物流企業への対抗に備えざるをえない状況が近づいていることを視野に入れておく必要があるからです。

 国家独占から民間会社に変貌した外国の郵便会社は、膨大な資本をバックに市場獲得を次々に他国に求めています。さらに外国の物流会社は自前の貨物輸送用のジェット機を持ち、国境を超えた物流ビジネスが展開されています。結局のところ、自国内のみの利益に飽き足らず、外国に求めているのでしょう。
 「民間でできることは民間に」ということばは、国内企業の活性化を引き起こすメッセージではなく、外国企業を迎え入れるメッセージなのです。

 日本も確実に巻き込まれつつあるいま、目先の小荷物引受シェア獲得以上に考えなければならない問題は数多くあるのではないでしょうか。

関連サイト

ヤマト運輸
意見広告全文
「ローソンと日本郵政公社の提携」に関する当社の見解
日本郵政公社
ヤマト運輸の各紙全面広告(16.8.26)について(公社見解)
ゆうパックリニューアルPRサイト

関連ページ

郵政民営化議論に水を差す(4)〜「こんな程度」の温度差〜
郵政民営化議論に水を差す(3)〜最悪のシナリオ〜
郵政民営化議論に水を差す(2)〜真の敵は誰?〜
郵政民営化議論に水を差す(1)〜民営化≠自由競争〜

郵政事業に関するムダ知識

・ヤマト運輸と旧郵政省は仲が悪いと言われているが、それ以上に旧運輸省(現国土交通省)との仲の悪さの方が際立っていた。トラックの路線免許を出し渋るなどの意地悪をしていた。
・しかし現場サイドではヤマト運輸と郵便局はライバル視しておらず、むしろ暗黙で協力していたという。特定郵便局長の親族が経営する自営店舗がいち早く宅急便の取扱店になり、郵便局の職員がこっそりアルバイトで宅急便の荷物を配達していたなどという、今では考えられないエピソードもある。
・どこで仲が悪くなったか。やはりバブルの頃ではないだろうか。国も莫大なおカネが必要だった頃、都市部に多くの特定郵便局を作り、定期定額貯金を集め回った。さらにクレジットカード配達における信書論争…バブルが郵貯を肥大化し、官と民の間に亀裂を作ったのである。

関連書籍紹介(Amazon経由)

『経営学』 小倉昌男 日経BP 1999
『世界の郵便改革』 星野興爾 郵研社 2004

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